夏を感じる和歌⑧

ベランダに蝉の亡骸がありました。ベランダに出るまで少しも気づきませんでした。誰にも知られることなく死に絶えた命を目の前にして、夏の深まりを一層感じずにはいられませんでした。

 

本日紹介する和歌はこちらです。

 

人もがな  見せも聞かせも   萩の花

                  さく夕かげの      ひぐらしの声

 

【現代語訳】

誰か人がいてほしい。花を見せもしたい、声を聞かせもしたい。萩の花が咲く夕日の

中のひぐらしの声よ。

和泉式部 千人万首(注釈付き)

 

作者は和泉式部です。和泉式部日記の著者として古典の授業などで習うと思います。また、36歌仙にも数えられる人物です。

数多くの恋をした人物で、恋の歌が多く詠われています。

 

この歌は季節の趣を人と共有したいという思いが込められています。

夕方に鳴き始めるひぐらしの鳴き声を聞きながら、萩の花を誰かと見ていたいという、哀愁漂う和泉式部の姿が目に浮かんできます。

 

皆さんは季節の趣を共有できる人がいますか?

 

自分の感じた感動を誰かに伝えたいというのは、誰しもがもつ欲望です。もし、共有できる人がいるのなら、大切にしてください。大人になった今だからこそ、このような情緒を共有できる人を。

 

私も共有できる人を探して、今日も日がな一日ベランダの窓越しに入道雲を眺めています。